コミュニケーションロスはどこで発生するか

2018年10月30日

コミュニケーションロスとは、意思の伝達がうまくいかず意図する方向に向かうエネルギーを損なうことを言います。意思疎通における、損失、無駄、浪費、改ざん、変容などです。
コミュニケーションロスは主に以下3つの領域で発生し、組織の意思の流れを阻害し、目的達成のために投下すべき貴重なエネルギーを喪失させます。

 

1.頭の中にあることVS言っていること(言語化作業のロス)

 

 

人は言葉を習得したことにより、頭の中にあることを言語化して第三者に伝えることができるようになりました。しかし、言いたいことが正確に表現できない、自分で何を言いたいのか分からない、考えがうまくまとまらない、といった経験は誰でもあるのではないでしょうか? 言いたいことを分かりやすく相手に伝えるには高度な技術を要します。相手の立場や知識レベルを無視して話したり、言いたいことが多すぎて情報を詰め込みすぎてしまったり、あいまいな表現を使っていたり、非論理的な流れで話したり…これらのことは日常的に目にする光景ではないでしょうか。

コミュニメーションロスの始まりは、自分の考えを整理して言語化する工程で発生します。自分が正しく理解していない、考えが整理できていないことを認しているならまだ良いのですが、「分かっているつもり」になっていると思考停止に陥り、ロスの原因となります。この段階でロスが乗じると、組織の意思を実現することはできません。組織の意思がだれにも伝わらないからです。このロスは、思考技術と言語化技術を鍛えることによって解消できます。

 

2.言っていることVS聞いていること(聞く態度によるロス)

 

 

話を聞く行為にはエネルギーと時間が必要です。そしてある程度の集中が求められます。まず自分を「相手の話を聞く状況」に持っていかなければなりません。別のことを考えながら聞いたり、そもそもあまり聞く気がなかったりすると、相手の話は頭に入ってきません。聞いたとしても、すぐに忘れてしまうこともあります。また、相手の話を最後まで聞かないで自分の意見を言ったり・・・。そして、「言った言わない」のモメごとはこのような状況下で発生します。

このように聞く態度によって「相手が伝えようとしている情報」は失われていきます。まずは、相手が言おうとしていることを聴こうとすること。そして、最後までしっかり聞いて受け止めることが大切です。不明点があれば質問する。そうすれば、ロスは軽減できるでしょう。質問は理解するためにするのであって、相手を追い詰めるために用いてはいけません。

3.聞いていることVS解釈したこと(理解力やバイアスによるロス)

人は話を聞こうと思っても、対象分野に対する見識が不足していれば理解することができません。理解できる分野であったとしても、過去の経験学習からは育んだ価値観を基に解釈を加えながら聞くものです。人は元来、事象に対して無意識のうちに勝手な解釈を加えながら生活し、解釈したものを事実として認識しています。これは生きるために備わった脳の仕組みなのですが、実際に話されたことと解釈したことに乖離が生まれます。事実と解釈の乖離です。それは、見過ごすことができる小さな乖離である場合もあれば、不思議なほどに大きな乖離にもなり得ます。問題なのは、私たちが解釈を事実として認識してしまうということです。

朝起きて空を見ると雲っています。ある人は傘を持って家を出ますが、ある人は傘を持たずに家を出ます。同じ事実を見ても行動が真逆になる理由は解釈の差にあります。「これは雨が降るぞ」と解釈するか、「今日は何とか持ちそうだ」を解釈するかによって行動(意思決定)が異なってくるわけです。ですから、相手の意見あるいは事実と解釈をしっかり識別することが大切です。コミュニケーションロスにおける最も大きな敵のひとつは「解釈」です。ほとんどの場合、自分の解釈は相手の言いたいことと同一ではありません。したがって、正しく伝わったことを確認する「解釈のすり合わせ」作業をするように心がけると良いでしょう。

私たちは、これらのロスが日常的に発生していることを否定することはできません。

コミュニケーションロスを放置すると、組織の意思が体の末端にまでよどみなく流れる健康体な状態から徐々に組織の健康を蝕んでいくでしょう。決して軽視することはできないのです。

ライター


<a href="https://www.npo-safety.org/expert/yamaguchijunji/">山口 純治</a>
山口 純治

ブランディング、商品プロモーション、製品マニュアル、販売店や社員トレーニング、社内コミュニケーション改善 など、さまざまな情報伝達シーンにおいて「コミュニケーション設計」の支援をしている。
主な活動として、コンサルティング、セミナー、トレーニング・研修、会議やプロジェクトのファシリテーションなどの自立支援活動や、Webサイト・カタログ・パンフレット・動画・マニュアルなどの企画・制作などがある。

 

コラム一覧


第1回 2018年10月30日組織の健全化|経営のエネルギーロスを削減する!
第2回 2018年10月30日コミュニケーションロスはどこで発生するか
第3回 2018年10月30日組織のコミュニケーションレベルを評価する
第4回 2018年10月30日組織に潜在するコンフリクトを把握する
第5回 2018年10月30日コンフリクトマネジメントの実践で組織を活性化する
第6回 2018年10月30日対立を活力に変えるコンフリクトの活用
第7回 2018年10月30日コミュニケーションデザイン|組織の意思を可視化する①
第8回 2018年10月30日コミュニケーションデザイン|組織の意思を可視化する②
第9回 2019年1月3日コミュニケーションデザイン|引き出す技術を身に着ける
第10回 2019年3月9日コミュニケーションデザイン|引き出す技術(良い質問は未来を開く)
第11回 2019年12月6日コミュニケーションデザイン|本質を追求するマインド|①事象をありのままに受け入れる
第12回 2019年12月12日コミュニケーションデザイン|本質を追求するマインド|②前提を知ろうとする
第13回 2020年7月1日コミュニケーションデザイン|本質を追求するマインド|③シンプルに考える