2. 伝わる文章には秘密のエッセンスあり ~読み手に寄り添う心~
テクニカルライティングでは、「読み手の心情」に配慮します。そうしないと、読んでもらえない、不快な思いにさせてしまうなど、意図しない結果を招く可能性があるからです。
配慮のポイントは、「自分の主観や感情を抑えて書く」、「通俗的な表現や軽薄さが感じられる表現をしない」ことです。*参考出典『日本語スタイルガイド』 一般財団法人 テクニカルコミュニケーター協会 編著
自分の主観や感情を抑えて書く
マニュアル制作での操作文執筆で、主観や感情が入ることは、まずありません。事実を確実に伝えることが第一義だからです。文章作成の基本はここにあるのだと、私は考えます。
題材がエモーショナルだとしても、文章に求められるものは「正確に伝えること」ではないでしょうか。シンプルな文章に感情をプラスすることは、応用段階でできます。まずは、客観的で冷静な文章を書きたいものです。それはビジネス文書の世界でも大いに役立つと思います。
先日、あるクレーム文を読んで、「これはすばらしい」と声に出して賞賛してしまいました。引用記載してみます。少しだけカットしていますが、ほぼ原文のままです。
そちらのビルに勤務されている方の何名かが、付近のマンション前に自転車を駐車して出社されています。
また、止めかたも非常に乱雑でとても迷惑しております。大至急注意を促し、モラルの改善を要求します。
クレーム文なのに、非常に読みやすくわかりやすい文章です。迷惑を蒙っておられることが、ひしひしと伝わり、要求も明確です。それは、感情を抑えたシンプルな文章だからこそ「伝わる」のです。きっと、言いたいことはもっともっとあったと思います。そこをグッとこらえて、名文が生まれたのですね。
通俗的な表現や軽薄さが感じられる表現をしない
俗語、流行語、話し言葉、略語などを文章内で使用することは、時と場合によりけりです。友人同士のメールやSNSのグループ内でのやり取りでは、いろいろな言葉が行き交うことでしょう。しかし、テクニカルライティングでは、信頼される表現が求められています。ここでも、上記と同じようなことを述べておきます。スタンダードな表現にユーモアやウイットをプラス(またはコンバート)することは、応用段階でできます。まずは、流行に左右されない品性確かな文章を書くよう心がけたいものです。
例に出すことには賛否両論あるでしょうが、やはり「保育園落ちた日本死ね!!!」が気になります。よくニュースで取り上げられている冒頭箇所を引用すると:
保育園落ちた日本死ね!!!
何なんだよ日本。
一億総活躍社会じゃねーのかよ。
昨日見事に保育園落ちたわ。
どうすんだよ私活躍出来ねーじゃねーか。……後略……
問題の深刻さには触れず、文章表現だけに言及します。
この文章だからこそ話題となり、拡散・共感を得て、国会で取り上げられたという意見がありました。かたや、30代の母親がこんな言葉を使うのか?と非難する向きもありました。省略している部分には「クソ」とか「ボケ」も書いてありましたね。言葉が過激です。
特に「死ね」には、驚きました。取り上げられるよう狙って計算して、故意に「死ね」なのか、感情に任せて「死ね」なのか、真実はわかりません。結果的には、待機児童問題を論じるきっかけになっているようです。
このような「感情のまま書き殴った」ように見える文章は、品性を疑われかねないので損かもしれません。書いたブロガーさんは、批判の声があがることを承知で、インパクトを優先されたのかもしれませんが。
【まとめ】
読み手の心情に配慮しよう!
信頼される表現を使おう!
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