「東芝不正会計事件」
<不適切会計・不正会計・粉飾決算の違い>
今回の東芝の会計不祥事は、東芝が当初公にした2015 年4 月時点で「不適切会計」という言葉を使っていたことで、各新聞も「不適切会計」という表現で報道されていた。
その後第三者委員会が経営トップの意図的な利益かさ上げがあったとする報告書を7 月に出したあたりから、朝日・毎日・産経3社の報道は「不正会計」や「利益水増し」などの言葉を使うようになった。雑誌の中には「不正会計」のほか「粉飾決算」という言葉も見られる。
しかし東芝のニュースリリース、日経・読売の報道は、現在も「不適切会計」と言う表現のままである。
<東芝不正会計事件の経過概要>
東芝の不正会計事件の発覚のきっかけは、2015 年1 月頃、証券取引等監視委員会に対して、インフラ関連プロジェクトの会計処理に不正行為があったとする内部告発があったとされる。
2015 年2 月12 日、証券取引等監視委員会は金融商品取引法26 条に基づき報告命令および開示検査を行った。
不正会計事件が表面化したのは、2015 年4 月3 日に東芝が社内に特別調査委員会(委員長は室町正志取締役会長)を設置することを発表してからである。
しかしその後、インフラ関連以外にも調査を要する事項が判明したことから第三者委員会を設置することとし、2015 年5 月15 日に第三者委員会が立ち上がり(委員長は上田廣一弁護士 元東京高等検察庁検事長、委嘱事項は調査及び発生原因の究明、再発防止策の提言)、社内の特別調査委員会から証拠資料が引き継がれた。
なお5 月8 日、決算発表は6 月以降となることで、決算書類確定が配当金支払いの手続き期限に間に合わないためとして、2015 年3 月期は無配とすることが発表された。
7月20 日第三者委員会報告書が東芝に提出され、それによると第三者委員会委嘱案件についての過年度決算の税引き前利益修正必要額は2008 年度から2014 年度第3四半期までの累計で▲1518 億円(自主チェック分も合わせると▲1562 億円)であった。
また決算における利益水増しには、経営トップらが関与して当期利益のかさ上げ、費用・損失等の先送りなど組織的に不適切な会計処理により行われていたことが明らかになった。
7 月21 日第三者委員会報告を受けて東芝田中久雄社長は記者会見を行い、田中久雄社長、佐々木則夫副会長(前社長)、西田厚相談役(前々社長)らが辞任し、9 月の臨時株主総会までの間は暫定的に室町正志会長が社長を兼務することを発表した。
9 月9 日東芝の株主から、これらの不正な会計処理に関してし、東芝に現旧役員に対する損害賠償請求訴訟を提起するよう請求があった。
東芝は9 月7 日、第三者委員会報告書の精査を経てようやく過年度決算の修正および2014年度の決算を発表した。また9 月14 日には2015 年度第1四半期の決算発表を行った。
そして東芝は、会計不正事件にかかわる一連の決算作業が終了したこと、および株主より提訴請求を受けたことを踏まえ、東芝および現旧役員と利害関係のない弁護士からなる役員責任調査委員会(委員長は大内弁護士 元札幌高等裁判所長官)を9 月17 日に設置した。
11 月7 日役員責任調査委員会報告書が東芝に提出され、東芝は元社長の3 名と元財務担当取締役の2 名に対して3 億円の損害賠償請求訴訟を提起した。
また米国カリフォルニア州で提起された集団訴訟の訴状も日本において正式に受領したことを明らかにした。
東芝は東証の指摘を受け11 月17 日、第三者委員会報告で触れられていなかった米原発事業子会社のウェスチングハウスの過去の減損約1156 億円があることを公表した。
現在、東芝事件株主弁護団が呼びかけをしており、株価下落で被害を被った株主による集団訴訟が12 月以降順次提起される予定である。
<事件発生の原因>
経営トップが達成不可能な利益目標を事業部門に強力に指示、これを受けた事業部門は当期利益のかさ上げや費用・損失計上の先送りなどの不正を実行・継続、その事実を認識していたのに経営トップは中止や是正を指示しなかった。中には損失引当金計上の承認を求められたのに対して、経営トップがこれを拒否したり先延ばしの方針を示したと認められる案件もあったという。
東芝は2003 年から、委員会等設置会社(現在は指名委員会等設置会社)に移行している。過半数以上を社外取締役で構成する「指名委員会」、「監査委員会」、「報酬委員会」を設置し、ガバナンス面では日本の先端企業だったが有効に機能していなかった。
また内部統制やコンプライアンス体制も当然に完備されていた企業であったが、これら部門は社長の傘下にあり、社長の不正行動を取り締まることはできない。
粉飾決算を口に出して指示しないまでも、達成不可能な数字目標を強引に事業部門に押し付け有無を言わせない倫理観のないトップには、ガバナンス・内部統制・コンプライアンス体制は有効に機能しなかった。
<リスクマネジメントの観点から>
トップが関与する不正を監視するためには形だけの体制ではなかなか難しく、不正情報が独立した外部の監視機関に上がっていかなければ機能しない。
今回の事件は証券取引等監視委員会への内部告発が事件発覚のきっかけだった。
内部告発制度は不正行為防止の一つの抑止力にはなるものの、トップの不正は想定されておらず、社外の弁護士事務所が相談窓口であっても、その情報が経営トップにフィードバックされることが多い。また現に内部告発を利用した告発者が異動や給与面での不利益を被るケースがあるなどまだまだ見受けられることから、不正摘発の実効性ある制度とすることが求められる。
トップの不正を堂々と不利益なく告発できる体制を作ることがガバナンス体制強化の一つのカギとなる。
取締役会・監査委員会は執行役員の行う業務を監査できる機能を真に持つことが必要である。そのため見識ある社外取締役・監査委員会メンバーを過半数以上選任することが必要である。
ライター
コラム一覧
第1回 2015年12月5日 | 危機・リスク例に学ぶリスクマネジメント2017 「他山の石」 |
第2回 2015年12月10日 | 危機・リスク例に学ぶリスクマネジメント2017 「東芝不正会計事件」 |