「他山の石」
「他山の石(たざんのいし)」は,中国最古の詩集「詩経(しきょう)」にある故事に由来する言葉で、「よその山から出た粗悪な石も自分の宝石を磨くのに利用できる」ことから、「他人の誤った言行やつまらない出来事でもそれを参考にしてよく用いれば,自分の修養の助けとなるという意味である。
※文化庁月報平成23 年10 月号(No.517)より
テレビや新聞では連日のように不祥事を起こした企業や組織のトップが、決まり文句のように「ご迷惑とご心配をおかけし心よりお詫び申し上げます」と謝罪の言葉を述べ、深々と頭をさげている。
最近の事例では、くい打ちデータ改ざんの旭化成建材、不正会計の東芝、免震ゴムデータ偽装の東洋ゴム、顧客情報大量漏えいのベネッセコーポレーション、エアーバッグ欠陥のタカダ、有価証券報告書虚偽記載のオリンパス、海外企業でも排ガス不正操作のフォルクスワーゲンなど事件で巨額の損失と信用失墜を招いている。
事件発生後の各社の記者会見対応を見ても、「対応が遅い」、「まだ何か隠しているのではないか」、「誠意が感じられない」、「責任逃れようとする発言が目立つ」、「体質が改善されていない」などの印象を持つケースも多い。
こうした光景を見ていると、危機管理が会社としてできてないケースが多くみられ、率直に「大企業が何故このような事件を起こすのだろうか」「企業のリスクマネジメント体制や危機管理体制は一体どうなっているのだろうか」といつも感じる。
しかしこのような事件や事故例は、業種、会社規模、背景などにかかわらずリスクマネジメントに取り組んでいる企業、あるいは取り組もうとしている企業においてはまさに「他山の石」である。
事件後の対応について公表の迅速性、公表内容の質、再発防止策の妥当性、責任が明確化されているかなど社会からの要求に照らして問題はないかどうかの観点から観察し、自社が万が一の事態に陥った場合に備えての教訓とすべきである。
逆に松下電器(現パナソニック)のように石油ファンヒーターで一酸化炭素中毒による死亡・重症事故が発生(2005 年)したものの、新聞・テレビ・ラジオ・DM・社員ローラー作戦など全社を挙げた必死の製品回収対応が社会から評価され、信頼を回復した企業もある。
一方、リスクマネジメント取組みが機能して事件・事故発生に至らず、未然にリスク回避ができていた企業はマスコミに報道されることもなく、当該企業自らがあえて語らない限りなかなか表には現れてこない。
現代は急速な情報技術進歩、事業の国際化、事業展開のスピードアップ等に加えて、インターネットの普及に伴い、リスクはより複雑・多様なものとなっている。
またインターネット社会の進展は、内部告発をより容易化にし、悪い情報の瞬時拡散を可能にするなど、企業を取り巻くリスク環境は大きく変化している。
さらに事件・事故が発生した場合には、素早い事実や原因の公表、事前の備え、今後の対処策などの情報をできるだけ早く公正に公開することが取引先や社会から強く求められている。
こうした中でリスクマネジメント取組みの重要性は、益々増している。
リスクマネジメント(狭義)のプロセスは、「リスクの洗い出し」、「リスクの分析・評価(発生頻度および影響度)」、「評価に応じて対策の決定」、「実施効果の検証・改善」が一つのサイクルである。
危機管理(クライシスマネジメント)は実際に事件・事故が発生した場合に緊急対応組織や行動、広報などの対策をどうするかをあらかじめ定めておくことである。
(注)リスクマネジメント(狭義)と危機管理(クライシスマネジメント)を合わせて「広義のリスマネジメント」と言う
コストがかかる、どこから手を付けていいかわからないなどの理由から、リスクマネジメント・危機管理に取り組めていない企業も多くある。
他社で発生した事件や事故の原因を分析し、自社でも同様に起きうるかどうかを検討すれば未然の防止策や発生した場合の危機管理対策を決め易い。
リスクマネジメントや危機管理の取り組みをあまり難しく考える必要はなく、他社の事件・事故例を他山の石として第一歩が踏み出せる。
次回以降このコラムでは実際の事件・事故を他山の石とし、教訓とすべき点を取り上げていきたい。
ライター
コラム一覧
第1回 2015年12月5日 | 危機・リスク例に学ぶリスクマネジメント2017 「他山の石」 |
第2回 2015年12月10日 | 危機・リスク例に学ぶリスクマネジメント2017 「東芝不正会計事件」 |