組織に潜在するコンフリクトを把握する

2018年10月30日

この記事のテーマであるコミュニケーションデザインは、組織の目標達成のために関係者との最適な関係を設計します。「組織の意思が体の末端にまでよどみなく流れる」状態をつくり出し、それを維持することを目的に、関係者との適切なコミュニケーションを設計します。

コミュニケーションデザインでは、主に「可視化」と「共有」の技術を活用します。

■可視化とは何か

ここで示す可視化とは、(目標達成のために)見えないものを言語化する行為を意味します。そのプロセスは以下のとおりで、①と②を繰り返すことで情報が整理され洗練されていきます。

①引き出す:
目標、課題、現状、考え、意図、価値観、感情などを「質問技術」によって引き出す。引き出した情報を基に議論を深めて、さらに新しい情報を引き出す。

②整理する:
引き出した情報を分類し、関連付けし、構造化する。この情報を基に議論を深め、さらに新しい情報を引き出して整理する。

■共有とは何か

共有とは可視化した情報を理性(頭)と感性(心)で分かち合うことを意味します。行動経済学でも証明されているように、人の行動は必ずしも論理的・合理的なものではなく、往々にして感情で物事を判断して行動するものです。コミュニケーションデザインにおける共有は、関係者の理解だけでなく共感や納得を得ることに焦点を当てています。共有するうえで、「認知」「利害」「感情」といった3つのコンフリクト(対立)について考慮する必要があります。
コンフリクトはコミュニケーションロスを生み出す要因となるため、あらかじめ可視化して対策を検討しておく必要があります。

■3つのコンフリクト

それでは、コミュニケーションロスの原因をつくる3つのコンフリクトについて解説していきます。

1.認知のコンフリクト:
持っている情報、思考、経験、文化、習慣などの違いから発生する対立で、主に組織内では「保有する情報の差」によって生じます。たとえば、

  • 展開すべき情報とそうでない情報を上司が勝手に判断する
  • 前提条件などの情報展開をしないで部下に指示をする
  • 決定事項を伝えても決定に至るまでのプロセスを伝えていない
  • 手順を伝えても目的を伝えていない

など、さまざまな理由によって保有する情報の差が生じます。ある部署の上司は部下に情報を展開し、別の部署の上司は展開しないといったことはよくあります。情報差の大きい状態でコミュニケーションをとると理解の乖離が生じます。「人は保有する情報の範囲で物事を考え行動する」わけですから、情報が与えられなければ、思考と行動に制限がかかってしまいます。

2.利害のコンフリクト:
立場、役割、責任、目的、制約条件などの違いから発生する対立です。組織内では様々な立場があり、立場によって視点が異なります。視点の違いは、価値観や課題認識などにも影響を及ぼし、人の言動を決定づけます。通常、人は自分の立場で話をし、自分の立場で人の話を聞きます。それぞれが立場に執着し相手の立場に対する配慮をしなければ、立場の違いから認識の差が生じたり意見の衝突に発展したりします。意見の衝突があるなら、まだ被害は大きくありませんが、「どうせ言ってもムダ」と意見の衝突を避けるようになれば、対立が顕在化せず、とても危険な状態と言えます。

3.感情のコンフリクト:
上記2つからの影響による、わだかまりやネガティブな感情によって発生する対立で、最も見えにくく扱いにくいコンフリクトです。人の意思決定は過去の経験に大きく影響を受けます。過去に嫌な経験をすると、こういった経験から遠ざかろうとしますし、否定的な感情を持ちます。かつてプロジェクトで苦い体験をした人は、新しいプロジェクトには否定的になるといった感じです。このコンフリクトが見えにくい理由は、本人ですらその感情に気がついていない場合が多いからです。

コミュニケーションロスの原因となるこれらのコンフリクトを可視化して、対策を検討しましょう。

 

ライター


<a href="http://npo-safety.org/expert/yamaguchijunji/">山口 純治</a>
山口 純治

ブランディング、商品プロモーション、製品マニュアル、販売店や社員トレーニング、社内コミュニケーション改善 など、さまざまな情報伝達シーンにおいて「コミュニケーション設計」の支援をしている。
主な活動として、コンサルティング、セミナー、トレーニング・研修、会議やプロジェクトのファシリテーションなどの自立支援活動や、Webサイト・カタログ・パンフレット・動画・マニュアルなどの企画・制作などがある。

 

コラム一覧


第1回 2018年10月30日組織の健全化|経営のエネルギーロスを削減する!
第2回 2018年10月30日コミュニケーションロスはどこで発生するか
第3回 2018年10月30日組織のコミュニケーションレベルを評価する
第4回 2018年10月30日組織に潜在するコンフリクトを把握する
第5回 2018年10月30日コンフリクトマネジメントの実践で組織を活性化する
第6回 2018年10月30日対立を活力に変えるコンフリクトの活用
第7回 2018年10月30日コミュニケーションデザイン|組織の意思を可視化する①
第8回 2018年10月30日コミュニケーションデザイン|組織の意思を可視化する②
第9回 2019年1月3日コミュニケーションデザイン|引き出す技術を身に着ける
第10回 2019年3月9日コミュニケーションデザイン|引き出す技術(良い質問は未来を開く)
第11回 2019年12月6日コミュニケーションデザイン|本質を追求するマインド|①事象をありのままに受け入れる
第12回 2019年12月12日コミュニケーションデザイン|本質を追求するマインド|②前提を知ろうとする
第13回 2020年7月1日コミュニケーションデザイン|本質を追求するマインド|③シンプルに考える