製造物責任の特徴と歴史

2017年3月21日

 製造物責任(PL)の特徴は、「無過失責任」または「厳格責任」を採用しているところにあります。今回は、この中でもPL法理発祥の地、米国における「厳格責任」(Strict Liability)採用の過程を振り返ります。
 「過失責任」と「無過失責任」・「厳格責任」の違いを把握しましょう。

厳格責任の採用

 その発端は産業革命にまでさかのぼります。
 産業革命は18世紀中ごろに英国で起こり、19世紀には米国にも進展しました。19世紀末までに、米国は世界一の工業国となりました。そして、米国市場は大量生産・大量消費の時代へと変化しました。この社会的システムでは欠陥のある粗悪品、不当表示、誇大広告による被害の増大に結びつき、大きな社会問題となりました。
 しかしながら、当時の責任原理は「過失責任」に基づいていました。過失責任原理のもとでは、製品によって生じた損害に関して、メーカーが危険を認識・把握しており、さらにその危険を回避するための手段を講じていなかったことを、被害者が立証しなければなりませんでした。そのため、被害者の負担が大きく、泣き寝入りせざるを得ないという問題がありました。

【「過失責任」法理の下での製造物責任】

  1. 事故の発生
  2. 製品の欠陥
  3. 損害と欠陥との因果関係
  4. 製品の欠陥に関する製造業者の過失

これに対して米国では、判例法の展開に伴って1910年代には製品に対して、製品使用者(ユーザー)が直接責任を追及できるようになりました。さらに、過失の立証が困難であったことから、「事実推定則」や「保証責任の法理」などが展開され、
被害を受けたユーザーの説明責任の緩和が図られてきました。しかしながら、これらの法理を適用できるケースには限界がありました。 その後、1920年代後半には消費者組合(Consumer Union)が結成され、消費者運動へとつながっていきます。1960年に入り、企業告発型の消費者運動と欠陥製品をめぐる訴訟がさかんになり、米国民の消費者保護運動に対する関心が高まりました。 1962年3月15日、ジョン・F・ケネディ大統領は米国議会において公式に消費者の権利について演説しました。 なお現在、3月15日は「国際消費者保護の日」として認定されています。

【消費者利益の保護に関する特別教書】

    「消費者には4つの権利がある」
  1. 知らされる権利
  2. 安全である権利
  3. 選択する権利
  4. 苦情を聞いてもらえる権利

 この演説は、米国における消費者・ユーザー保護の方針としてその後の米国社会に大きな影響を及ぼしました。言い換えれば、この演説に至った背景には、消費者保護に対して積極的な米国の社会的環境があったのです。
 そして、1963年にはカリフォルニア州最高裁において、「不法行為上の厳格責任」が適用されました。この「厳格責任」は1960年代半ばにリステイトメントに採用されたこともあり、判例のうえで採用されることが多くなりました。

【「厳格責任」法理の下での製造物責任】

  1. 事故の発生
  2. 製品の欠陥
  3. 損害と欠陥との因果関係
  4. 製品の欠陥によって被害を受けたユーザーが、これらを立証した場合、
    製造業者は過失の有無にかかわらず発生した損害に対して責任を負う

 1960年半ば以降、不法行為上の厳格責任として製造物責任訴訟が多発しました。州ごとに差はあるものの、米国のほとんどの州が厳格責任を採用したためです。この時期の米国製造物訴訟では、州と州の間に統一性がなく、諸州の製造物責任が不確実でした。そのため、さまざまな問題が発生しました。

【発生した問題】

    製造物責任保険の保険料が急激に高騰して、消費財および生産財の価格が上昇
    製造業者の技術革新に関する意欲の低下
    製造物責任保険非付帯で取り引きする製造物販売者の増加

 結果として、製品事故被害者の権利が不当に奪われることになり、「製造物責任危機」として深刻な問題が生じました。また、「製造物責任保険」価格の高騰や引受拒否はリスクの大きい分野から企業を撤退させる要因となりました。
 このような状況の中、米国政府は米国の国際競争力に大きな影響があるとの見解を示し、商務省に命じて1979年に米国 諸州に向けたモデル法として「統一製造物責任法」(Uniform Product Liability Act)を策定しました。この法案は1979年10月31日に合衆国連邦政府の官報に掲載されました。

【モデル法案とは】

    米国諸州が法律を作成する際に各州の商法を統一するための草案です。商取引が複数の州にまたがる場合、個々の州では
    単独に解決できないことがあります。法秩序の維持統制を取る必要がある場合、モデル法案の採用を諸州に促します。

 しかしながら、モデル法案は諸州で自発的に採用することを目的としており、拘束力はなく、諸州が足並みをそろえて採用しなければ有効に機能しないという問題を抱えていました。
 「統一製造物責任法」の特徴は、「製造物責任」に関する欠陥の類型を分類して、各類型の欠陥を厳密に定義づけすることで製造業者の責任原理の明確化を図ろうとしたことにあります。この際、このモデル法案では、第104条において欠陥を3つに分けて規定しました。

【第104条「製造業者の責任の基本的基準」】

  1. 製造上の欠陥
    「製造物が構造上、不合理に安全性を欠いたこと」
  2. 設計上の欠陥
    「製造物が設計上、不合理に安全性を欠いたこと」
  3. 指示・警告上の欠陥
    「製造物が適切な警告または指示をしなかったために、不合理に安全性を欠いたこと」

この規定はその後、様々な解釈がなされ、各国製造物責任法の「欠陥」の定義に盛り込まれるようになります。他方、米国においてはさらに深く考察されており、「不合理か否かの判断は陪審員が判断するべき事項であり、裁判官は陪審員に対して欠陥に関する判断を指示できない」としている州もあります。

ライター
出﨑 克

出﨑 克

特定非営利活動法人セフティマネジメント協会 理事長
危機管理システム研究学会会員
一般社団法人PL研究学会会員

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