リスクアセスメントと取扱説明書

2017年2月1日

<法律と規格の蜜月な関係>

 製品安全や消費者保護/労働者保護に関する法律にどのように対応すればよいのか。法律の内容を読んでも、なかなか分かりにくいところです。たとえば、国内のPL法の条文には具体的な対策について全く書かれていません。ただ、「取扱説明書や警告ラベルの不備があれば裁判に負ける」という情報だけが独り歩きしている状況です。余談ですが、筆者の講演に参加した方々へのアンケートによると、日本のPL法を読んだことのない人がほとんどです。日本のPL法はわずか6箇条しかないので、読むのに時間はかかりません。ぜひ、一度は目を通しておいていただきたいと思います。

 さて、製品安全や消費者保護/労働者保護に関する具体的な対策内容については、法律の条文ではなく、国際規格(ISOやIEC)や各国の国家規格(JIS、DIN、BS、GB、KSなど)で定められています。

 法律は「何をしてはいけないか?」という“What”を示し、規格は「どう実現すればよいか?」という“How”を示すと考えれば分かりやすいと思います。

<国際規格に沿った取扱説明書の作成を設計プロセスに組み込もう>

 国際市場でビジネスを展開する上で、製品安全や消費者保護に関する法律遵守は必須であることは言うまでもありませんが、これらの法律に対応するには、その具体的な対応方法を定めた国際規格の対応が必要となります。
 国際規格の中で製品安全に関する規格の頂点に位置するのが、ISO/IEC Guide 51:2014 (安全側面-規格への導入指針)です。これは、安全に関する条項を規格に導入する際のガイドライン(指針)で、ISOとIECの両組織が共同で開発し発行したものです。詳細は割愛しますが、重要なポイントをいくつか挙げましょう。

<絶対安全は存在しない>

 ISO/IEC Guide 51:2014では「絶対安全は存在しない」ことを宣言しています。リスクを完全に排除することはできないということが前提です。安全とは「許容できないリスクがない状態」、あるいは「リスクが許容可能なレベルになっている状態」であるとしています。
 安全は、リスクアセスメントとリスクの低減方策を繰り返して適用することで達成すると規定しています。

 リスクアセスメントとリスク低減方策については、ISO 12100:2010(機械類の安全性-設計の一般原則-リスクアセスメント及びリスク低減)で詳細に記されています。

<リスクアセスメント>

 リスクアセスメントはリスクを見積り評価する作業で、次のステップで実施します。

1.機械類の制限を決定

製品が取り扱われる「想定の範囲」を明確にします。この作業をすることで、リスクの評価は、想定の範囲内で行うことができます。

・製品の使用上の制限(正常、誤使用、使用者は誰か)

・空間上の制限(稼動範囲、作業範囲)

・時間的な制限(製品本体や部品の寿命限界)

・その他材料特性や環境に関する制限。

・「意図される使用」と「合理的に予見可能な誤使用」を明確化。

2.危険源の同定

災害を引き起こす潜在的な根源を特定します。危険源には、機械の動き、熱、電気、有害な磁場や光線、騒音、物質などによるものがあります。

3.リスクの見積り

危害のひどさと危害発生の確立を見積もります。

・危害のひどさ(重症か軽傷か、危害を受けるのは一人か複数か)

・危害の発生確率(危険源への接触頻度と時間、危険事象の発生確率、回避と制限の可能性)

4.リスクの評価

リスクは許容できるか否かを評価します。

<製品設計活動におけるリスク低減方策>

 リスク評価の結果、許容できないリスクが存在すれば、リスク低減方策によって許容可能なレベルまでリスクを縮小しなければなりません。このリスク低減方策は、次の3つのステップ(3ステップメソッド)で実施され、それぞれのステップの順番を変えることは許されていません。

ステップ1 本質的安全設計方策(Inherently safe design):
製品が取り扱われる「想定の範囲」を明確にします。この作業をすることで、リスクの評価は、想定の範囲内で行うことができます。
ガードや保護装置を使用しないで危険源そのものや危険源への接触機会を除去する方策
ステップ2 ガードと保護装置による防護策(Guards and protective devices):
ステップ1によって合理的に除去できないリスクに対して人が接触しないようにする保護方策
ステップ3 使用情報の提供によるリスク回避(Information for use):
ステップ2によって合理的に除去できないリスクを使用者に伝え、リスクを回避してもらうための情報伝達手段

ステップ3のリスク低減方策は、取扱説明書や警告ラベルなどの使用説明(Instructions for use)を用いた方策を指しています。繰り返しますが、リスク低減方策は1→2→3の順に実施しなければなりません。製品安全に関する問題を発見した時に、「取扱説明書に書いておけ!」と指示をするのではなく、必ずステップ1から対応しなければなりません。

 つまり、使用説明は製品設計活動におけるリスク低減の「最後の砦」なのです。使用説明を通じて残留リスクをきちんと伝えなければ、指示警告上の欠陥があるとみなされます。欠陥のない使用説明をどう作ればよいか。それを規定した国際規格がIEC 82079-1:2012(使用説明の作成-構成、内容及び表示方法-第1部:一般原則及び詳細要求事項)です。使用説明を作成するときには、この規格に準拠することで、消費者(あるいは製品の使用者)の安全を守り、かつ万が一のときにも指示警告上の欠陥を指摘されるリスクが軽減されます。
 IEC 82079-1:2012の内容については、別の機会に説明します。

ライター
山口 純治

山口 純治

ブランディング、商品プロモーション、製品マニュアル、販売店や社員トレーニング、社内コミュニケーション改善 など、さまざまな情報伝達シーンにおいて「コミュニケーション設計」の支援をしている。主な活動として、コンサルティング、セミナー、トレーニング・研修、会議やプロジェクトのファシリテーションなどの自立支援活動や、Webサイト・カタログ・パンフレット・動画・マニュアルなどの企画・制作などがある。

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