コミュニケーションデザイン|本質を追求するマインド|②前提を知ろうとする

2019年12月12日

多様性の大切さが叫ばれる時代になりました。しかし、人が集まるとどうしても意見の違いが生まれます。それは自然なことでしょう。皆が同じ意見であるという世界は、かえって異常と言えます。意見の違いが発生したときに、どのような態度をとるか、それが重要なポイントとなります。「自分は正しい。相手が間違っている。」と思うとき、人は自分の意見を相手に押し付けたり(強制)、お互いに譲歩したり(妥協)、自分の意見を抑えて相手の意見に迎合したり(服従)、相手との対話を避けたり、お互いが相手を否定したり(回避)…など、いずれかの態度をとります。それは本質を追求するマインドからは遠く離れた態度です。

 

 

当たり前は思い込み

 

たとえば、日本人にとって、電車が時間どおりに来ることは「当たり前」のことかもしれませんが、多くの国では「電車が時間どおりに来る」しかも「ほんの数分遅れただけで、謝罪のアナウンスが流れる」なんて、信じられないほど不思議なことだったりします。では、どちらの感覚が正しいでしょうか? もちろん、どちらも正しいわけです。何が違うかと言えば、それぞれのバックグラウンド(住む世界)が違うわけです。

ある管理者は「組織には厳しい規律が必要だ」と言います。別の管理者は、「ある程度は社員の自主性に任せた方がイキイキと働ける」と言います。どちらの意見が正しいでしょうか?

 

すべての意見が正しい

 

本質を追求するマインドでは、「すべての意見が正しい。お互いの持つバックグラウンドが異なっているだけである」と考えます。バックグラウンドは、私たちの価値観に影響を及ぼし、考え方の土台となる前提を作り上げます。意見が異なるのは、お互いの持つ前提が違うためなのです。過去に外部のコンサルタントを使ったところ、現場を引っ掻き回されてひどい目にあった経験を持つ管理者と、社内ではどうしようもない八方ふさがりな状況から、コンサルタントから得た助言によって立ち直った経験のある管理者とでは、コンサルタントに対するイメージが大きく違います。この二人が、新しいプロジェクトの推進を外部コンサルタントに依頼するかどうかを議論したらどうなるでしょうか?

「あなたは間違っている」と言われ、瞬時に「なんだと!?」と相手の意見にそのまま反応していては、相互理解は生まれませんし、多様性を受け入れることはできません。調和・協力の代わり対立が生まれるだけです。

 

相手の意見と人格は別物

 

対立について少し触れます。
筆者がアメリカに出張し、取引先と自動車のアフターサービスに関する会議をしていた時のことです。お互いの立場の違いから部品の供給単位について激しい対立が生まれ、議論は平行線になっていました。会議室はピリピリした空気で満ちています。それでも、ランチタイムになると議論を戦わせている相手と楽しく笑いながら食事をするアメリカ人を見て、相手の意見と人格を別物として扱う姿勢に感心したものです。日本では、激しく対立している相手と談笑することはあまりないでしょう。

「日本人は議論が下手だ」と言われます。何よりも和を尊ぶ村社会の日本では、自分の意見を殺してでも協調を重んじてきた背景があります。異質なものは村から追い出されてしまうからです。果たして、意見が違う者は和を乱す悪者であり、敵である。というような考えが根付き、相手の意見に耳を傾けず、ただただ自分の意見を押し付けて、ついには相手の人格を攻撃するような、議論下手になったのだと推察します。

 

多様性を歓迎する

 

意見の違いは、あなたの人格を否定するものではありません。
相手があなたと違う意見を持っていたとしても、相手はあなたの敵ではありません。
意見の違いは新しい道を生み出します。

ですから、自分と異なる意見に触れたときには、その意見を生み出している前提が何であるかを探る姿勢を重要視するべきです。

これは、言うほどカンタンではありません。まず相手の意見をしっかりと聞いて受け入れること。むしろ、「違い」を歓迎する。そして、対話を通して相手の意見の意図を確認しながら、相手が持っている前提を探っていきます。その上で、お互いに満足できる「新しい道」を模索することが、議論のあるべき姿です。

 

ライター


<a href="http://npo-safety.org/expert/yamaguchijunji/">山口 純治</a>
山口 純治

ブランディング、商品プロモーション、製品マニュアル、販売店や社員トレーニング、社内コミュニケーション改善 など、さまざまな情報伝達シーンにおいて「コミュニケーション設計」の支援をしている。
主な活動として、コンサルティング、セミナー、トレーニング・研修、会議やプロジェクトのファシリテーションなどの自立支援活動や、Webサイト・カタログ・パンフレット・動画・マニュアルなどの企画・制作などがある。

 

コラム一覧


第1回 2018年10月30日組織の健全化|経営のエネルギーロスを削減する!
第2回 2018年10月30日コミュニケーションロスはどこで発生するか
第3回 2018年10月30日組織のコミュニケーションレベルを評価する
第4回 2018年10月30日組織に潜在するコンフリクトを把握する
第5回 2018年10月30日コンフリクトマネジメントの実践で組織を活性化する
第6回 2018年10月30日対立を活力に変えるコンフリクトの活用
第7回 2018年10月30日コミュニケーションデザイン|組織の意思を可視化する①
第8回 2018年10月30日コミュニケーションデザイン|組織の意思を可視化する②
第9回 2019年1月3日コミュニケーションデザイン|引き出す技術を身に着ける
第10回 2019年3月9日コミュニケーションデザイン|引き出す技術(良い質問は未来を開く)
第11回 2019年12月6日コミュニケーションデザイン|本質を追求するマインド|①事象をありのままに受け入れる
第12回 2019年12月12日コミュニケーションデザイン|本質を追求するマインド|②前提を知ろうとする
第13回 2020年7月1日コミュニケーションデザイン|本質を追求するマインド|③シンプルに考える