1. 「あいまい文」の原因を知ろう ~悪い相性の記号や語句~

2016年3月24日

「正確に書く・一意的に書く」とは、どういうことでしょうか。読み手に、誤解や迷いを与えない文を書くことです。理解しやすく、明快で簡潔であれば、なおよろしいかと思います。では、誤解や迷いはどうして生じるか。これは、「あいまいさ」に起因するようです。

今回は、ある約物*(符号)と接続詞の組み合わせで、あいまいになってしまった文例をご紹介します。* 約物……記号などの総称

ある取扱説明書内に、以下の文がありました。

サーバーのIP アドレス、ホスト名またはFQDN 名を指定します。

この文は、複数の解釈ができます。

[解釈A]
IP アドレスとホスト名、またはFQDN 名を指定する
(A + B) or C を指定する

[解釈B]
IP アドレスと、ホスト名またはFQDN 名を指定する
A +( B or C)を指定する

製品の性質から考えると、次のような[解釈C]も浮上してきました。

[解釈C]
IP アドレスまたはホスト名、またはFQDN 名を指定する
A or B or C を指定する

そして、実機検証の結果は[解釈C]だったのです。


サーバーの「何か」を入力するときに、読点と「または」が同時に使用されているため、誤解を招きます。一見、簡潔ですっきりした文に見えます。しかし、正確に伝わらなければマニュアルの操作文としては失格です。書き手側の「わかっている人しか読まないだろう」という思い込みもいけません。誰が読んでも、同じ操作をしてもらえるように、よく考えて書き換える必要があります。

 

[リライト例①]

サーバーのIP アドレス、またはホスト名、またはFQDN 名を指定します。

(IP アドレス直後の読点は、打ったほうが明確です)

 

[リライト例②]

サーバーのIP アドレスか、ホスト名か、FQDN 名を指定します。

 

[リライト例③]

サーバーの、以下のいずれかを指定します。

 ・IP アドレス

 ・ホスト名

 ・FQDN 名

 


[リライト例③]の箇条書きを使うと、読みやすく、確実に伝わります。行数を取られるという、ささやかな難点もありますが、ぜひ使っていただきたいテクニックのひとつです。

テクニカルライティング技術のバイブルには、「1 文内に『と』と『または』を併用しないこと」と記載されています。今回文例のように、読点「、」が、「と」と同じ役割を担っている場合、「、」と「または」の併用も同じ結果を招きます。要注意です!

では、実用文で考えてみましょう。ヨガ教室の告知文を作成するとします。ターゲットは、ヨガ未経験の初心者さん。持ってきてもらいたいものが「5 本指ソックスとフェイスタオルとバスタオル(ヨガマット)」の場合、どう伝えましょうか。日時や場所、料金、連絡先などの必要事項のほかに、どのように書きますか?

冒頭のマニュアル文(悪い例)に倣えば:

なお、当日は、5 本指ソックス、タオルまたはバスタオル(あればヨガマット)を持参してください。


丸括弧内を、「あればヨガマット」としているので、まだ想像力が働きます。ヨガマットの代用品として、バスタオルが必要なのかな、と。ですが、注意深く読まないと、「フェイスタオルでも、バスタオルでも、タオルを持って行けばいいのね」と勘違いするかも。こういうときこそ、箇条書きの出番でしょう。

[リライト例①]

なお、当日は以下のものを持参してください。

 ・5 本指ソックス

 ・フェイスタオル

 ・バスタオル(あればヨガマット)

誤解されない文を書く技術、「テクニカルライティング」。マニュアル制作だけでなく、実用文でもお役に立ちそうですよ。

 

【まとめ】

 

1 文内に「と」と「または」を併用しない!
並列の読点「、」にも、じゅうぶん注意!

 

ライター


峰本 恵美子
峰本 恵美子

テクニカルライター&トレーナー
自動車オーナーズマニュアル、特装車・福祉車両・覆面パトカー、カーオーディオ、情報家電など、20 年以上にわたり、
さまざまなマニュアル作成を経験。
業務用厨房機器カタログ制作のキャッチコピー作成など、「分かりやすく伝える」技術を活かした業務を担当する。
近年は、業務経験で培った「テクニカルライティングの技術」を研修講師として社内外に広く展開している。

 

コラム一覧


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第2回伝わる文章には秘密のエッセンスあり ~読み手に寄り添う心~
第3回主語と述語は直球勝負! ~ねじれないよう、まっすぐに~
第4回主語と述語の蜜月関係 ~なるべく近くに置いてあげよう~
第5回わかりにくい長文を変身させよう ~分かち書きと箇条書きのテクニック~